関脇・琴錦(現浅香山親方)、対大関戦57勝の軌跡

関脇在位21場所。連続在位最高6場所(平成5年秋〜6年名古屋)。史上最強の関脇と言われた琴錦は、同時に最強の大関キラーの1人でもあった。ここまで長く関脇を務める実力があるのだから、大関に強いというのは当たり前ではあるだろうが、それにしても、通算で実に、57回も大関に勝っている。正確な記録を調べたわけではないので分からないが、恐らく関脇以下力士における対大関戦勝利数では、相当上位の数字を記録しているのではないかと思う。横綱にこそ通算15勝と、意外に少ない回数しか勝てなかった琴錦だが、大関に対しては、まさに当たり前とばかりに、ほぼ毎場所倒してみせた。

通算11人の大関と対戦し、うち8人に土をつけた琴錦。全員に土を付けていないのがこれまた意外だが、8人から57勝を挙げた琴錦の対大関戦を、ここで振り返ってみよう。 

勝数 場所 対戦大関 当場所
相手大関成績
当場所
琴錦番付・成績
備考(三役での横綱戦勝利など)
平成2年名古屋場所10日目 北天佑 9勝6敗 東前頭1、9勝6敗 琴錦、初の殊勲賞。伝説とも言える大関キラー記録のスタート。
平成2年秋場所場所3日目 北天佑 2勝5敗引退 東小結、9勝6敗 初日、14勝1敗で優勝した横綱・北勝海に土を付けている。
平成2年九州場所初日 霧島 10勝5敗 西関脇、10勝5敗 6日目、横綱・旭富士に勝って初日から6連勝。11日目、横綱・北勝海に勝って勝ち越しを決める。
      〃    5日目 小錦 10勝5敗
平成3年春場所中日 霧島 5勝10敗 東関脇、9勝6敗 前場所は横綱・旭富士に勝って中日勝ち越しを決める。初の大関盗りの場所だったが、不本意な9勝。
     〃   千秋楽 小錦 9勝6敗
平成3年秋場所初日 小錦 11勝4敗 東前頭5、13勝2敗 琴錦、初優勝。平幕優勝を飾る。3場所ぶりの大関戦勝利だった。
     〃   6日目 霧島 12勝3敗
平成3年九州場所14日目 小錦 13勝2敗 西小結、12勝3敗 大関・小錦は優勝。琴錦は準優勝だった。
10 平成4年春場所初日 霧島 12勝3敗 東前頭1、9勝6敗 前場所は2度目の大関盗りだったが、負け越し。
11 平成4年名古屋場所9日目 小錦 10勝5敗 西関脇、6勝9敗 この場所、負け越すも両大関に勝つ(新大関・曙は全休)。
12       〃     14日目 霧島 11勝4敗
13 平成4年秋場所3日目 霧島 7勝8敗 東前頭1、11勝4敗 二桁勝って三賞を貰えなかった、唯一の場所。
14       〃   4日目  小錦 9勝6敗
15 平成4年九州場所2日目 霧島 1勝7敗7休 東小結、13勝2敗 準優勝。翌場所、3度目の大関盗りとなったが負け越し。二度とチャンスは無かった。
16 平成5年名古屋場所3日目 貴ノ花 13勝2敗 西前頭1、12勝3敗 貴ノ花戦の勝利は、平成2年秋以来3年ぶりの、小錦・霧島以外の大関からの勝利。
17       〃      6日目 小錦 9勝6敗
18 平成5年秋場所中日 貴ノ花 12勝3敗 西張関脇、9勝6敗 貴ノ花戦は、物言い取り直しの末、勝利。前年秋も、物言い取り直しとなり、敗れている。
19 平成5年九州場所3日目 貴ノ花 7勝8敗 西関脇、9勝6敗 対大関・貴ノ花戦3連勝。大関・貴ノ花に3連勝したのは、曙と琴錦の2人だけ。
20       〃    9日目 小錦 6勝9敗
21 平成6年初場所13日目 若ノ花 11勝4敗 東張関脇、9勝6敗 初めて、大関昇進後の若ノ花に勝つ。
22 平成6年春場所13日目 貴ノ花 11勝4敗 東関脇、10勝5敗 5日目、横綱・曙に勝つ。関脇で久しぶりの二桁、三賞となったが、いずれもこれが最後。
23 平成6年夏場所千秋楽 貴ノ浪 9勝6敗 東関脇、9勝6敗 千秋楽の大関戦勝利は、19場所ぶり2度目。
24 平成6年秋場所4日目 武蔵丸 11勝4敗 西前頭3、8勝7敗 大関昇進後の武蔵丸から初勝利だったが、4分近い大熱戦となった。
25 平成6年九州場所4日目 武蔵丸 12勝3敗 西小結、8勝7敗 2日連続大関に勝利したが、場所の成績は5勝7敗から3連勝での勝ち越し。
26       〃    5日目 貴ノ浪 12勝3敗
27 平成7年初場所6日目 若乃花 12勝3敗 4勝5敗6休 琴錦、初土俵以来、初の休場となった。翌場所は公傷。
28 平成7年夏場所6日目 若乃花 9勝6敗 西前頭3、8勝7敗 貴ノ浪には、この頃、対戦成績が五分に並ぶ度に勝ち、1点リードで勝率五割を守っていた。
29       〃   中日 貴ノ浪 6勝9敗
30 平成7年名古屋場所3日目 若乃花 11勝4敗 東前頭1、8勝7敗 7勝1敗から6連敗の末、千秋楽にやっと勝ち越し。
31 平成7年秋場所初日 貴ノ浪 8勝7敗 西小結A、10勝5敗 意外にも一場所3大関倒しは初めてだった。そしてこの後も、一場所で3大関に勝つは一度も無かった。これもまた意外。
32       〃   2日目 武蔵丸 10勝5敗
33       〃   7日目 若乃花 10勝5敗
34 平成7年九州場所6日目 武蔵丸 10勝5敗 西関脇A、8勝7敗 10日目に勝ち越しながら、終盤5連敗。勿体なかった。
35       〃    10日目 貴ノ浪 9勝6敗
36 平成8年初場所9日目 武蔵丸 9勝6敗 西関脇、9勝6敗 大関には1人しか勝てないも、9勝を挙げる。
37 平成8年春場所中日 武蔵丸 9勝6敗 西関脇、8勝7敗 またしても勝ち越した後、4連敗して7敗。6場所連続大関に勝利。
38 平成8年名古屋場所7日目 若乃花 10勝5敗 西前頭2、9勝6敗 この場所も11日目に勝ち越した後、3連敗。春場所の再現かと思うも、千秋楽9勝目!
39 平成8年秋場所5日目 武蔵丸 11勝4敗 西小結A、10勝5敗 この頃、大体中日〜9日目までに2敗を喫する事が多かったが、相手は大抵両横綱だった。
40       〃  11日目 貴ノ浪 9勝6敗
41 平成8年九州場所2日目 貴ノ浪 11勝4敗 西関脇A、8勝7敗 この場所、またも8勝4敗から3連敗で7敗。
42 平成9年初場所10日目 貴ノ浪 6勝9敗 西関脇、4勝11敗 この場所が、琴錦最後の関脇となった。
43 平成9年春場所6日目 武蔵丸 12勝3敗 西前頭3、8勝7敗 貴ノ浪に初の4連勝。その前は初の4連敗を喫していた。
44       〃  11日目 貴ノ浪 11勝4敗
45 平成9年夏場所中日 武蔵丸 9勝6敗 西前頭1、5勝10敗 久しぶりの大負けだが、それでも大関に勝つ。
46 平成9年名古屋場所12日目 貴ノ浪 9勝6敗 東前頭5、5勝10敗 2場所連続10敗。しかし2度目の6場所連続大関に勝利。
47 平成10年初場所5日目 武蔵丸 12勝3敗 西小結、10勝5敗 若乃花戦の勝利は、38勝目以来10戦ぶり。武蔵丸は優勝。
48       〃    9日目 若乃花 10勝5敗
49 平成10年春場所初日 武蔵丸 8勝7敗 東小結、6勝9敗 負け越したが、大関キラーぶりが蘇ってきた。
50 平成10年夏場所初日 武蔵丸 10勝5敗 東前頭2、11勝4敗 若乃花は優勝して横綱に昇進。2場所連続初日に同じ大関に勝つ。
51       〃   6日目 若乃花 12勝3敗
52 平成10年九州場所14日目 貴ノ浪 8勝7敗 西前頭12、14勝1敗 琴錦、史上初の2度目の平幕優勝。この一番に勝った後、1差の土佐ノ海が破れ、決まった。
53 平成11年初場所7日目 武蔵丸 8勝7敗 東小結A、6勝9敗 優勝翌場所、勝ち越し成らず。初日、横綱・貴乃花を破る。武蔵丸にはこれが最後の勝利。
54       〃   14日目 貴ノ浪 6勝9敗
55 平成11年春場所6日目 千代大海 3勝8敗4休 西前頭1、6勝9敗 5年ぶりに誕生した新大関を破った。倒した大関としては、通算8人目。
56 平成11年夏場所6日目 貴ノ浪 9勝6敗 西前頭3、9勝6敗 千代大海公傷のため、この場所はまたも貴ノ浪、武蔵丸の2大関。
57 平成11年秋場所5日目 貴ノ浪 3勝4敗8休 東小結、5勝10敗 2日目、横綱・若乃花に勝つ。記録的な大関戦勝利数だが、この一番が最後となった。


以上、関脇・琴錦の、対大関戦57勝の軌跡をご覧いただいた。
琴錦は、関脇在位史上2位タイ。相撲史に残る名関脇である事は間違いないが、いかんせん横綱戦に分が悪く、また、成績も二桁勝ったのは意外と3回だけ。最高は平成3年初場所の11勝4敗だった。小結では在位13場所で二桁が5回もあり、しかも13勝、12勝を挙げる場所があったのとは対照的だ。三賞も、関脇では4回の受賞だが、小結では実に6回もある。
しかし、琴錦は三役で初めて二桁勝ったのは関脇であり、その場所は三賞を、三役としては唯一ダブル受賞しているのである。

さて、少々余談が続いてしまったが、琴錦の対大関戦成績を、対戦相手別に改めてまとめてみる。

北天佑:2勝1敗小錦:8勝11敗霧島:7勝7敗貴ノ花(貴乃花):4勝7敗若乃花:8勝14敗貴ノ浪:14勝17敗武蔵丸:13勝14敗千代大海:1勝4敗

以上である。これに、一度も勝てなかった大関との成績を加える。

旭富士:2敗曙:3敗出島:3敗

これらを総合した、琴錦の対大関戦通算成績は、57勝83敗。負け越してはいるものの、相当な実力者ぶりの証である。
北天佑戦の勝ち越しは、たった3回の対戦でのものだからあまり参考になるとは言えないが、霧島戦は五分。そしてカモにしていた貴ノ浪、武蔵丸にもほとんど五分の好成績を収めている。また、貴ノ花から4勝を挙げたのも、曙に次ぐ記録である。
琴錦の活躍した時代は、5年間も大関が誕生しなかった時期がピッタシ重なっているのだが、その間、毎場所対戦した大関を本当によく倒していた。また、小錦・霧島の2大関時代にも、この両大関に対してそれぞれ分が良かったのだから、本当に非凡な力士と言えた。

ところで、琴錦は大関にこれだけ大量に勝ったのだから、大関戦はそれこそ、初挑戦でいきなり初白星を挙げたのではないか?とさえ思いたくなるだろう。しかし、実は大関戦初勝利は、横綱戦初勝利よりも後だったのである。平成2年夏場所12日目、横綱・北勝海を一方的な相撲で破ってよもやの金星を挙げた。これが、琴錦の横綱・大関戦初白星で、横綱挑戦僅か3度目での初勝利であった。一方、大関戦は、横綱戦より一場所遅れて初勝利を果たし、挑戦7度目である。その後も、琴錦は大関戦よりもむしろ横綱戦でハイペースで勝ち星を増やし、平成3年初場所時点では、大関戦通算4勝に対して、横綱戦は6勝となっていた。しかしその後、形勢は完全に逆転し、大関にのみ、ひたすら勝ち続けるようになっていく。

平成7年秋場所から平成10年夏場所6日目までの間に、琴錦は大関戦で21勝を挙げている。しかし、横綱戦では実に全敗だったのである。
このあたりの極端な記録の偏りというのも、一つの琴錦の個性と言えるのかも知れない。いずれにしても、押しも押されぬ大関キラーだった。



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