大関・朝潮(現高砂親方)、対横綱戦40勝の軌跡
大関としては、決して強い≠ニは言えない成績であった朝潮。これは下位に対して負けられないと意識し過ぎたが故の事でもあるのだが、その分、格上の横綱に対しては無類の強さを発揮した。全盛期の横綱・北の湖を面白い様にカモにし、また千代の富士にもかなり健闘した。結果として朝潮は、対戦した9人の横綱全員に土を付け、しかも通算の対横綱戦白星が40勝という、一つの金字塔を打ち立てたのである。この記録を敗れる力士は、例え大関と言えども、今後なかなか出てこないのではないだろうか?
54代横綱・輪島から62代横綱・大乃国まで、古今全横綱を制覇した一番一番を、ここに振り返ってみることにしよう。
| 勝数 | 場所 | 対戦横綱 | 当場所 相手横綱成績 |
備考 |
| 1 | 昭和55年春場所11日目 | 北の湖 | 13勝2敗(優勝) | 対横綱戦7度目で初白星(金星)。史上最多の、大関以下力士による横綱戦勝利数の記録が、この一番からスタートした。 |
| 2 | 昭和55年夏場所7日目 | 若乃花 | 12勝3敗 | 北の湖には2度目の挑戦で白星を得た朝汐だが、若乃花には3度目での初白星。この場所新小結であった。 |
| 3 | 〃 9日目 | 北の湖 | 14勝1敗(優勝) | 朝汐は新小結で2横綱を撃破。成績も2場所連続10勝の大勝ち。 |
| 4 | 昭和55年名古屋場所3日目 | 輪島 | 1勝4敗10休 | 新関脇の場所。輪島に4度目の挑戦で初白星だが、輪島は朝汐に敗れた2日後から休場。 |
| 5 | 〃 中日 | 三重ノ海 | 4勝6敗5休 | 時に華麗4横綱時代。唯一勝てていなかった三重ノ海にも勝って、これで対戦した横綱全員に勝つ。横綱・三重ノ海とは3度目の対戦であった。この場所は、まだ白星を得ていなかった2横綱に勝つという収穫だったが、三重ノ海も輪島同様、朝汐に敗れた2日後から休場。そしてこれが最後の対戦となった。 |
| 6 | 昭和56年初場所6日目 | 輪島 | 10勝5敗 | 輪島に2度目の勝利。輪島は翌春場所、初日朝汐に勝ったが、2日目琴風に破れて引退。天才横綱の、最後の白星の相手となった。 |
| 7 | 〃 10日目 | 北の湖 | 14勝1敗(同点) | 北の湖はこの一戦で勝っていれば、千秋楽、千代の富士との、恐らく史上初であろう横綱と関脇による全勝対決になっていた可能性が高い。 |
| 8 | 昭和56年夏場所2日目 | 若乃花 | 3敗12休 | 若乃花に1年ぶり2度目の勝利だが、対戦翌日から若乃花は休場。 |
| 9 | 〃 中日 | 北の湖 | 14勝1敗(優勝) | この時点で対戦成績は、朝汐の4勝3敗で再びリード。 |
| 10 | 昭和56年名古屋場所14日目 | 北の湖 | 13勝2敗 | 北の湖は、この翌日に大関・千代の富士に破れ、連敗に終わる。一方、千代の富士は場所後、横綱に昇進した。 |
| 11 | 昭和56年秋場所14日目 | 北の湖 | 10勝5敗 | 対北の湖戦4連勝だが、この翌場所も不戦勝を得て、結果的に5連勝、年間の対戦全てを制する格好となった。 |
| 12 | 昭和56年九州場所13日目 | 千代の富士 | 12勝3敗(優勝) | 横綱・千代の富士との初対戦だが、いきなり制する。ただし千秋楽、優勝決定戦では敗れた。 |
| 13 | 昭和57年初場所5日目 | 若乃花 | 9勝6敗 | この場所、対北の湖戦の連勝は止まった。 |
| 14 | 昭和57年春場所7日目 | 北の湖 | 11勝4敗 | 平幕に落ちていたこの場所、またも北の湖に勝って、通算4個目の金星。6場所連続で横綱に勝つ。 |
| 15 | 昭和57年夏場所5日目 | 若乃花 | 12勝3敗 | 若乃花が優勝出来る最後のチャンスだった場所。この一番での敗戦が痛かったかも・・・・・。 |
| 16 | 〃 6日目 | 北の湖 | 9勝4敗2休 | 初めて、2日連続で横綱を破る。なお、千代の富士には初日に敗れており、千秋楽にも決定戦で破れ、一場所に千代の富士に2度負ける格好となった。 |
| 17 | 昭和57年名古屋場所12日目 | 千代の富士 | 12勝3敗(優勝) | 前場所の雪辱を果たしたと言えるのだろうか?優勝した千代の富士から、リベンジの白星。 |
| 18 | 昭和57年秋場所9日目 | 若乃花 | 10勝5敗 | この年、東京場所は全て若乃花に勝った。 |
| 19 | 昭和57年九州場所初日 | 北の湖 | 9勝3敗3休 | 朝汐、最後の平幕の場所で、通算5個目の金星。内4個が北の湖から。この年、全場所で横綱から白星を挙げた。 |
| 20 | 昭和58年初場所4日目 | 北の湖 | 5勝4敗6休 | 返り関脇のこの場所、北の湖にまたも連勝。これで昭和56年夏場所から、実に11場所連続で横綱から白星を挙げ、これは最高位関脇としては史上初の快挙ではないかと思われる。 |
| 21 | 〃 5日目 | 若乃花 | 2勝4敗、引退 | これで東京場所は、対若乃花戦4連勝となったが、この一番を最後に若乃花は引退した。 |
| 22 | 〃 11日目 | 千代の富士 | 11勝4敗 | この場所は3横綱総ナメを果たした。因みに成績は自己最高の14勝1敗で、大関・琴風と優勝同点。ただ一つの黒星が琴風からで、57年夏場所に続いて、一場所で同じ力士に2度負けて優勝を逃した。大関に上がる以前に横綱に勝ったのはこれが最後で、通算22勝は魁皇、安芸乃島と並ぶ史上1位。 |
| 23 | 昭和59年初場所7日目 | 千代の富士 | 12勝3敗 | 昭和58年夏場所に大関に昇進後は、昇進場所が横綱不在、4場所目が公傷休場という事もあって、横綱には勝てないでいた。しかしこの日、1年ぶりに横綱に勝ち、初めて大関として横綱戦で勝ち名乗りを受けた。 |
| 24 | 〃 中日 | 隆の里 | 13勝2敗(優勝) | 前回の対戦の時、怪我をして公傷休場に追い込まれた相手。この時は勝って、横綱昇進後の隆の里に2度目の対戦で勝つと共に、優勝した横綱に土を付けた。 |
| 25 | 〃 12日目 | 北の湖 | 8勝7敗 | 前日、勝ち越しを決めていた北の湖に勝ち、1年ぶりの対戦で勝って、通算3連勝となった。3横綱総ナメ。 |
| 26 | 昭和59年春場所7日目 | 千代の富士 | 4勝4敗7休 | 千代の富士は、この翌日から休場した。 |
| 27 | 〃 12日目 | 北の湖 | 10勝5敗 | 北の湖戦4連勝となり、対戦成績も、不戦勝1を含め、13勝5敗。大横綱相手に、およそ信じられないような大量リードとなった。この翌場所、翌々場所と、最後は北の湖が連勝して、結局朝潮の13勝7敗で終わった。 |
| 28 | 〃 13日目 | 隆の里 | 11勝4敗 | 横綱・隆の里に連勝し、2場所連続で3横綱総ナメ。大関になってからも、依然横綱キラーぶりは健在の朝潮であったが、横綱戦通算6連勝というのは、いかに大関と言えども、ものすごい記録である。 |
| 29 | 昭和59年夏場所9日目 | 千代の富士 | 11勝4敗 | この前日、北の湖に破れ、この年になって初めて横綱に敗れている。しかし、すぐさま横綱に再勝した。 |
| 30 | 昭和59年名古屋場所13日目 | 隆の里 | 10勝5敗 | これで、横綱・隆の里戦は、3勝2敗とリードとなった。 |
| 31 | 昭和59年秋場所12日目 | 千代の富士 | 10勝5敗 | 朝潮、5場所連続横綱に勝利。対千代の富士戦4連勝となった。 |
| 32 | 〃 13日目 | 隆の里 | 10勝5敗 | 横綱・隆の里にも初めて連勝し、この場所、対戦した両横綱に土を付けた。 |
| 33 | 昭和60年春場所13日目 | 千代の富士 | 11勝4敗 | 2場所、横綱戦白星から遠ざかっていたが、北の湖引退後、第一人者横綱となった千代の富士に再度勝つ。この場所、朝潮は優勝し、この千代の富士戦は、優勝に大きく前進する重要な勝利となった。 |
| 34 | 昭和60年名古屋場所14日目 | 千代の富士 | 11勝4敗 | 千代の富士に4敗目を付け、2敗だった大関・北天祐への大きなアシストとなった。翌千秋楽、自身が直接対戦で敗れたことにより、北天祐の優勝が決定した。 |
| 35 | 昭和61年夏場所14日目 | 千代の富士 | 13勝2敗(優勝) | 昭和59年春場所以降、朝潮が倒した横綱は、全て成績が11勝以下であった。しかしこの場所は、12勝1敗だった王者、千代の富士に勝ち、結果的に久しぶりに優勝力士に土を付けたことにもなった。 |
| 36 | 昭和62年夏場所13日目 | 千代の富士 | 10勝5敗 | 通算36勝目の横綱戦白星だが、4回連続千代の富士からの勝利。全盛期の千代の富士にこれだけ勝ったのは素晴らしいが、これが最後の勝利となった。 |
| 37 | 昭和62年名古屋場所11日目 | 双羽黒 | 8勝7敗 | 前場所、1年ぶりに横綱に勝ち、この場所、久しぶりに2場所連続して横綱に勝った。双羽黒に勝ったのは初めて。 |
| 38 | 昭和62年九州場所13日目 | 北勝海 | 13勝2敗 | 横綱3場所目で、しかも初日敗れた後11連勝中、通算でも13勝した横綱・北勝海に勝った。これで通算8横綱に土を付け、長谷川(現秀ノ山親方)を抜いて歴代1位となった。 |
| 39 | 昭和63年初場所6日目 | 大乃国 | 5勝5敗5休 | 横綱2場所目の大乃国に勝ち、対戦した9人の横綱全員に土を付けた。2場所連続横綱に勝利はこれが最後。大乃国は10日目から休場しており、朝潮戦は、6日目と早めに組まれたのが幸いした。 |
| 40 | 昭和63年秋場所13日目 | 大乃国 | 8勝7敗 | 再び横綱・大乃国に勝ち、これで横綱戦通算40勝。堂々の大台達成となった。最新の横綱に勝ったわけだが、これが横綱キラーとしては最後の仕事。朝潮はこの3場所後、引退した。 |
以上、大関・朝潮の、対横綱戦40勝の軌跡をご覧いただいた。
朝潮は、大関としては、在位36場所中13勝が1回(=優勝)、11勝が僅か2回で、あとは全て10勝以下という、お世辞にも成績が良いとは言えなかったが、こと横綱戦に関しては、よくぞここまでという記録を残していたのである。
3横綱総ナメが3回、それも内2回は2場所連続、年間横綱戦成績10勝4敗(昭和59年)、そして全横綱に、4度目の対戦までに初白星を挙げ、9年連続横綱から白星を挙げるなど、本当に記録づくめである。
因みに、各横綱との対戦成績は、以下の通りである。
輪島:2勝6敗、 北の湖:12勝7敗(不戦勝1を除いて)、 若乃花:6勝9敗、 三重ノ海:1勝2敗、 千代の富士:11勝25敗、 隆の里:4勝3敗、 双羽黒:1勝5敗、 北勝海:1勝5敗、 大乃国:2勝5敗
以上で、横綱ごとの色分けについては、各横綱が全盛期に着けていた締め込みの色に因んでいる(おおよそで)。総合では、横綱戦成績は40勝67敗である。北の湖と隆の里の2横綱に勝ち越しており、勝ち数の上では北の湖に1勝差で2位の千代の富士には、勝率で見るとかなり大敗している。また、最後の3人の横綱に、きれいに5敗ずつしているというのも面白い。
そしてもう一つすごいのは、37〜39回目の白星の相手が、それぞれ順に新しい横綱(60〜62代)になっていっている事で、一番最後に勝った横綱も、時の最新横綱だった。
まだまだ上の表を見て興味が尽きない部分はあると思うが、いずれにせよ、ここまで徹底的に横綱キラーという仕事を果たす大関は、最初にも述べたように、なかなか誕生しないであろう。